胎児の体の中で出現して次の世代へとつながる生殖細胞を、人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から大量に作り出す技術を確立したと、京都大のチームが発表した。精子や卵子ができる仕組みの理解や不妊の原因の解明につながる成果で、論文が20日の科学誌ネイチャーに掲載される。
人の生殖細胞は、受精卵ができて約2週間後に胎児へと変化する段階で、さらに次の世代となる最初の「始原生殖細胞」が現れる。その後、胎児が男性の場合は「前精原細胞」へ、女性の場合は「卵原細胞」へと変化する。
京都大の斎藤 通紀 教授(細胞生物学)らは、これまでに人のiPS細胞から始原生殖細胞を作製。さらに、より卵子に近い卵原細胞へと変化させることにも成功していたが、効率が悪く、5000個の始原生殖細胞からできる卵原細胞は500個程度だった。
斎藤教授らは今回、人のiPS細胞から作った始原生殖細胞に「BMP2」というたんぱく質を加えることで、前精原細胞や卵原細胞へと効率良く変化させることに成功。細胞は活発に増殖し、培養開始から約4か月後には細胞数が100億倍に増えた。
前精原細胞や卵原細胞は出生後、それぞれ精原細胞や卵母細胞になり、思春期を迎えてから精子や卵子へと成熟する。斎藤教授は「前精原細胞や卵原細胞をたくさん作れるようになり、研究が世界でも飛躍的に進むだろう。不妊の遺伝子を調べるなど生殖医学にも貢献できる」と話している。
林克彦・大阪大教授(生殖遺伝学)の話「人の体の中でも数が限られる前精原細胞や卵原細胞をこれほど大量に作られるようになったことは驚きだ。試験管内で人の体に近い形で作製できるようになったことで、精子や卵子にいたるまでのメカニズムを解明する研究がより進めやすくなることが期待される」