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網膜に映像を直接投影、スマホカメラがランナーに自動警告…障害者スポーツを支える新技術続々

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 障害者のスポーツ観戦や運動をサポートする最先端技術が続々と生まれている。体を動かすことは健康維持や社会参画につながるとして政府も推奨する。パリ・パラリンピックを今夏に控え、障害者スポーツへの関心の高まりに一役買うことが期待される。(波多江一郎、塚本康平)

 

選手が見えた

 

 「すごいシュートだ」「かっこいいなあ」。東京都町田市の市立総合体育館で3月上旬に行われたブラインドサッカー日本選手権決勝。観覧席では、片方の目に機器をあてた4人の観客が、目隠しをしてボールを巧みに操る選手たちの姿に感嘆の声を上げていた。

網膜に映像を直接投影、スマホカメラがランナーに自動警告…障害者スポーツを支える新技術続々

視覚支援機器を使ってブラインドサッカーの試合を観戦する弱視の人たち(3月9日、東京・町田市立総合体育館で)=須藤菜々子撮影

 4人は眼鏡をかけても十分な視力を得られない弱視の人たち。使っていたのは、カメラで撮影した映像をレーザーで目の網膜に直接投影する視覚支援機器で、視覚に障害があってもファインダーをのぞくと景色が鮮明に見える。

 観客の一人で茨城県つくば市の大学生、河野玲那さん(19)は、「ドリブルで相手をスルスルかわす選手が見え、すごいと思ったら歓声が上がった。ほかの観客と同じタイミングで盛り上がれるのがすごく楽しい」と声を弾ませた。

 開発した半導体関連企業「QDレーザ」(川崎市)は、各地のスポーツ大会で視覚障害者向けの利用体験会を行っている。会場での常備を目指しており、同社の担当者は「弱視の人でもスポーツ観戦を楽しみ、自分もやってみようと思ってもらえたらうれしい」と話す。

 

自分の意思で

 

 目が不自由でも、介助者なしで運動できる技術の開発も進む。

 米IT大手グーグルは、腰につけたスマートフォンのカメラがコース上のラインを認識し、ランナーが左右に大きく外れると、耳につけたイヤホンが警告を鳴らすアプリを開発中だ。

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介助者なしでコースを歩く津田さん。スマートフォンのカメラがコースのラインを認識し、左右に大きく外れるとイヤホンから警告が鳴る(4月13日、横浜市で)

 現在、同社は横浜市の障害者施設のトラックで月1回、視覚障害者向けの体験会を開き、アプリの精度向上を図っている。体験した同市の津田己三男さん(70)は「全盲で毎日ヘルパーと散歩をしているが、自分の意思で動くことができて楽しかった。最新技術が広がって、体を動かすきっかけになれば」と期待する。

 

ストレス解消

 

 政府は2011年施行のスポーツ基本法で、健康や体力の保持増進、社会参画につながるとして「障害者スポーツの推進」を掲げている。

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 スポーツ庁の調査によると、週1回以上運動をする20歳以上の障害者は13年度、18・2%にとどまっていたが、東京五輪・パラリンピックの開催でパラスポーツへの関心が高まった21年度は31%に上昇。昨年度は前年度比1・6ポイント増の32・5%に達した。昨年度の調査に回答した人に「運動して良かったこと」(複数回答)を尋ねたところ、「ストレスが解消される」が34・7%で最も多く、「体力・身体的機能が向上した」(26・1%)、「外出が増えた」(24・4%)と続いた。

 国は26年度までに、週1回以上運動をする障害者の割合を40%とする目標を示しており、スポーツ庁の担当者は「最新技術の機器が広がれば、スポーツへの接点が増え、スポーツ参画につながる」と歓迎する。

 

重度でもリモート体感

 

 体を自由に動かせない重度障害者向けに、スポーツを遠隔で体感してもらう取り組みも進む。

 東京都は2022年度から、カメラ機能付きの分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用し、パラスポーツのリモート体験事業を展開する。

 参加者は、福祉施設などにいながら、タブレット端末でイベント会場の映像を受信。車いすラグビーの体験では、オリヒメを持ったスタッフが座る車いすに、別の車いすがタックルすることで、その迫力を映像を通じて体感できる。2年間で都内20施設以上の障害者が事業に参加したという。

 広島市のシステム開発会社「ユニコーン」は4月、パラスポーツの人気競技・ボッチャを遠隔で楽しめる「eボッチャ」を製品化した。手足が不自由でも、パソコン画面上で視線を動かすことで、「ランプ」と呼ばれる投球用スロープの方向を調節し、プレーを楽しむことができる。

 同社は「遠くにいる人同士でも、障害がある人もない人も、一緒にパラスポーツを楽しめる」としている。


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