連携 「企業風土 異なる」
買収 中小多く資金不足
せき止め薬など身近な薬の供給不足が3年以上続く中、ジェネリック医薬品(後発薬)業界の再編を進め、生産体制を強化することを柱とする、厚生労働省の有識者検討会の報告書がほぼ固まった。近く公表される。改革の方向性が示されることになるが、資金力や企業風土の違いなどのハードルは多く、供給不足が解消できるかは不透明だ。(医療部 米山粛彦、編集委員 本田麻由美)
「少量多品目」
「医薬品を安定的に患者に届けられるよう、中長期的な産業構造の転換、改革に取り組むことが必要だ」。武見厚労相は17日の閣議後記者会見で強調した。
約190社もある後発薬メーカーは大半が中小企業で、業界は各社が多くの品目を少しずつ製造する「少量多品目生産」と呼ばれる構造だ。2020年頃から品質不正などの不祥事が相次ぎ、行政処分で出荷が停止されるなどして製造量が減少し、病院や薬局で薬が不足する事態となった。その後、新型コロナウイルスの流行などでの需要増加に増産が追いつかず、現在でも、後発薬の3割は注文に応じきれていない。
1社で多くの品目を生産するため、各社の製造スケジュールは過密だ。中堅の高田製薬(埼玉県)の幹部は「予定していた別の薬が作れなくなり患者に迷惑をかけるので、増産は簡単ではない」と打ち明ける。
検討会が示した報告書案は、少量多品目生産について、生産効率が悪く、不良品が発生するリスクがあるとして見直すことが重要だと指摘。5年間の集中改革期間を設け、〈1〉企業買収〈2〉事業譲渡〈3〉企業連合――などの方法で業界を再編することを提案している。企業連合では、各社が重点的に作る品目を分担することが想定される。新法人を設置する案も示した。
税優遇策
だが、実現は簡単ではない。
ある後発薬メーカーの幹部からは「買収するにも資金が足りない」「企業風土の違いから連携は簡単ではない」との声が上がる。後発薬の薬価(公定価格)が改定のたびに大幅に下落するなか、薬価が10円以下と安く「作れば作るほど赤字」の品目を誰が引き受けるのか、自社ブランドを残せるのか、といった点でもめることも想定される。
これに対し検討会は、再編に伴う設備導入費用について、政府による支援を促した。自民党の議員連盟は4月下旬にまとめた提言案で、合併や買収による事業拡大に対する税制面での優遇策に言及している。
菅原琢磨・法政大教授(医療経済学)は「業界再編は必要だ。政府は、再編に協力する企業を薬価の設定で優遇するなど、各社がメリットを感じられる方策を明確に示すべきだ」と一層の対策を求める。
生産効率向上
8000品目にも及ぶ後発薬を減らすこともポイントの一つだ。製薬企業は安定供給の責任を負うため、古くてあまり使われていない薬でも、自社の判断で製造をやめられない。報告書案では、少量多品目生産を改善するため、薬の製造中止手続きの明確化・簡素化などを通じて、生産効率を向上させ、持続可能な産業構造にするべきだとした。
安定供給のため、海外に依存している薬の原料の確保や、流通体制の改善を進めることも盛り込まれた。
後発薬問題に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの田極春美主任研究員は、「必要な薬が安定して患者・国民に届く体制を早急に作ることが最も重要だ。供給不足を解消できるかは、官民でのこれからの取り組みにかかっている。今後の5年間の集中改革期間で、具体的な道筋や未来像を業界自らも示す必要がある」と指摘している。
◆ ジェネリック医薬品(後発薬) =特許切れの新薬と同じ有効成分で作られ、効果や安全性は同等とされる。開発費が低く安価なため、政府が医療費抑制のために使用を推進し、使用割合は約15年間で35%から80%まで急伸した。
企業に自主点検要請 抜き打ち検査…品質確保へ国も対策
後発薬の品質を確保して不祥事を根絶するため、国も対策に乗り出している。
医薬品は法令に基づき、国が承認した方法で製造し、品質を調べる必要があるが、順守しない不祥事が相次いでいる。小林化工(福井県)では2020年12月、爪水虫などの治療薬に睡眠導入剤の成分が混入したことが発覚、2人が死亡した。沢井製薬(大阪府)は23年10月、品質試験で溶けにくくなったカプセルを不正に取り換えていたと明らかにした。これまでに後発薬メーカー9社が行政処分を受けた。
厚生労働省は4月、全ての後発薬メーカーに、製造や品質確認試験を法令通りに行っているか自主点検するよう求めた。各メーカーは10月までに、現場の作業員からの聞き取りなどを行い、結果を都道府県や厚労省に報告する。違反が疑われる工場には、抜き打ちの立ち入り検査も行う。
報告書案では、メーカーが法令を守って製造するという前提を徹底するため、品質の管理を重視した人事評価や人材育成を行い、企業風土を改善するよう求めている。
坂巻弘之・神奈川県立保健福祉大シニアフェロー(医薬品政策)は「品質を満たした医薬品を大量に製造する技術が不足していると、製造方法を勝手に変更して、それを隠す不祥事が起きる。時間はかかっても、各社が技術を高めることが大事だ」と話している。