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放心状態で運び込まれる子どもたち、恐怖心に配慮し医師ら優しく声かけ…カリタス小児童ら殺傷5年

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 川崎市多摩区で、スクールバスを待っていた私立カリタス小学校の児童ら20人が殺傷された事件から、28日で5年となった。当時、負傷者の処置などにあたった病院の一つ、市立多摩病院(多摩区宿河原)の医師や看護師が読売新聞の取材に応じ、当時の様子などを語った。(鈴木英二)

動揺する自身を落ち着かせ

 事件は2019年5月28日午前7時40分頃、同区登戸新町で発生した。消防から多摩病院に第一報が入ったのは午前8時だった。現場から病院までは約700メートル。医師2人が救急隊からの依頼で、治療の優先順位を決めるトリアージや応急処置を手伝うために現場に向かった。

放心状態で運び込まれる子どもたち、恐怖心に配慮し医師ら優しく声かけ…カリタス小児童ら殺傷5年

事件当時を振り返る(右から)長島院長、早川看護師、根本看護師(川崎市立多摩病院で)

 死傷者らは、川崎市内の4か所の病院に搬送された。このうち、多摩病院の救急災害医療センターには午前8時55分から9時半過ぎにかけ、けがをした6~12歳の女児5人が次々と運び込まれた。

 救急外来のベテラン、根本恵理子看護師(44)は、動揺する自身の気持ちを必死に落ち着かせた。医師に抱えられながら処置室に運びこまれた女児は、泣くことも怖がることもなく、何が起きたのかも分からない放心状態だった。「大丈夫だよ。怖かったね。色々検査して良くなろうね」と優しく声をかけた。駆けつけた家族にも声掛けをして混乱しないように努めた。

 小児救急看護認定看護師の資格を持つ早川満看護師(44)は急きょ、病棟から応援に入った。驚いたのは、負傷した子どもが「痛い」と泣き叫ぶのではなく、「ごめんなさい、助けてください」と謝っていたことだ。混乱し、あたかも「自分が何か悪いことをした」と思い込んでいるかのようだった。

 処置の際、ハサミやメスを怖がる子どもたちに、早川看護師は手を握り、「ちょっとハサミを出すけれど、傷を治すため。怖くないよ」などと語りかけた。

病室の電気消さず

 負傷者5人のうち3人が入院し、早川看護師は3人の看護にも当たった。暗くすると事件の光景を思い出すこともあるため、24時間、病室の電気は消せなかった。それでも目を閉じると思い出すのか、「きゃー、助けて」と叫ぶ子どももいた。

 子どもたちには、精神科の医師がカウンセリングに当たった。医療従事者も敵に見えてしまうことがあるため、絶えず父親か母親が付き添い、事件の報道に触れないよう、テレビなどは見せないようにした。

 各科の医師や看護師は連日カンファレンスを開き、子どもたちの精神状態や傷の具合などを共有して治療にあたり、子どもたちは1~2週間で退院した。

当時の教訓生かす

 5年前の出来事を振り返り、根本看護師は「救急外来で残っている看護師は私だけ。私自身、多数の傷病者の受け入れは初めてだった。この経験を後輩にも伝えていきたい」と話す。

 早川看護師は、医師らと連携がうまくとれ、スムーズに対応できたという思いでいるが、一つ心残りがある。あの日、いつも通りヘッドホンで音楽を聴きながら出勤した。登戸駅近くでカリタス小の子どもたちや保護者が列を作っていたが、「修学旅行にでも行くのかな」と思っただけで、避難していたとは思わなかった。

 病院に着いて着替えている時、殺傷事件があったと聞かされた。ヘッドホンを着けていなければ、周りの騒ぎに気づき、現場に駆けつけることができたかもしれない。それ以降、耳を塞がない骨伝導イヤホンに替えた。

 同病院の長島梧郎院長(63)は当時、救急災害医療センター長だった。多数傷病者の受け入れでは「正確な情報収集と体制の整備、院内の情報共有が不可欠」と語る。ところが、最初に入った情報は「擦り傷程度の5人」。次第に事態の深刻さが明らかになり、「正確な情報が入っていれば外来を止め、手術を延期する緊急事態宣言を出すこともできた」と振り返る。

 それでも、「『しっかり対応できた』という自信はみんなの心に残っている。この自信がなくならないよう、努めていきたい」と長島院長は力を込めた。


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