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アスリートに利用広がる「低圧室」、過去にも死亡例…専門家「その日の体調確認や管理体制徹底を」

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 宇都宮市のトレーニング施設で低圧室にいた男女2人が倒れ、うち1人が死亡した事故から1か月あまりが過ぎた。栃木県警は業務上過失致死容疑での立件を視野に当時の運用状況などを詳しく調べている。同様の装置はアスリートなどに利用が広がっているが、過去にも死亡事故が起きており、関係者は慎重な利用を呼びかけている。

アスリートに利用広がる「低圧室」、過去にも死亡例…専門家「その日の体調確認や管理体制徹底を」

事故が起きたトレーニング施設(宇都宮市田野町で)

 事故は4月12日午前11時頃、同市田野町のトレーニング施設「リラクゼーションサロンVent」で発生した。「女性が心肺停止になっている」との119番を受けた救急隊員が駆けつけると、鹿沼市上野町、競輪選手渡辺藤男さん(57)と50歳代女性が低圧室(直径約2・2メートル、奥行き約6メートル)内で倒れていた。女性は病院に搬送後、回復したが、渡辺さんは約2週間後、低酸素脳症で死亡した。

 宇都宮中央署などによると、競輪選手としてのキャリアが豊富な渡辺さんは、この施設の常連客。女性は経営者の妻で、低圧室の操作を長年任されていたという。当時、女性は室内で操作し、渡辺さんはトレーニングをしており、何らかの人為的なミスで2人が低酸素状態になった可能性がある。

 アスリートにとって低地でも高地と同様の酸素濃度に調整できる装置を利用したトレーニングは魅力的な要素が多い。

 東洋大学健康スポーツ科学部の 今有礼こんみちひろ 教授(運動生理学)によると、高地の低酸素環境に数週間滞在すると酸素を運搬する血液中のヘモグロビンが増えるため、持久力の向上が期待できるという。さらに人工の低酸素環境を利用した高強度のトレーニングが筋力向上に効果的だとする研究結果も報告されており、瞬発力が必要な競技のアスリートの利用が増えているという。

 ただ、低圧室など人工的に酸素濃度を低下させる装置を巡る事故は過去にも起きている。

 埼玉県ふじみ野市の入浴施設で2014年9月、健康目的で気圧を下げる装置「パスカル健康房」に入っていた客の男女2人が死亡した。

 この事故では、運営会社の役員と施設の支配人が業務上過失致死罪に問われ、インストラクターを配置したり携帯型気圧計を所持させたりせず、長時間、低圧・低酸素状態にして2人を死亡させたとして、さいたま地裁で有罪判決を受けた。

 今回の事故で使用されたものとは別の低圧室を製造する「ワールドネットインターナショナル」(東京都)の担当者によると、低圧室は空気を抜いて、高山環境を短時間で再現するものだという。同社では安全確保のため、室外で1人が待機して5分ごとに内部を確認し、15~20分以上は利用しないよう求めている。

 血流促進などを目的に標高1500メートルと同程度まで気圧を下げることができる「調圧ルーム」を製造販売する「進盟ルーム」(福島県)の川上陽介社長(53)は「気圧を扱うのは人体に関わることで、安全への配慮が欠かせない。民間施設でこれ以上、事故が起きないように減圧の基準を設けるルール作りも考えるべきだ」と指摘する。

 今教授は今回の事故を受け、「低酸素環境でのトレーニングは負荷が高くなる。利用者のその日の体調の確認や管理体制を徹底した上でトレーニングを行うべきだ」と警鐘を鳴らしている。


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